2013年10月14日月曜日

谷間で汽笛を聞きながら──大井川鉄道

2013.9.25
【静岡県】


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 昨晩泊まった寸又峡温泉は、近くの温泉がダム建設で水没するため1962年に開かれ、無色透明ながら「トゥルットゥル」のお湯を楽しめます。
 この地は1968年の金嬉老事件(きんきろうじけん:武装犯が旅館の宿泊客らを人質に籠城)で、不本意ながら注目されました(耳にしたが記憶にない)。


千頭(ちず)駅(Map)


 千頭駅は、大井川鉄道の終着駅・南アルプスあぷとラインの始発駅で、現役のSL転車台(ターンテーブル)もあり鉄道マニアにはたまらないようで、山間地駅前の活気は両鉄道人気おかげですから、ちょっとビックリします。
 上のあぷとラインは、水力発電所建設用トロッコとして建設され、一部区間で国内唯一のアプト式機関車(歯車をかみ合わせて坂を上る)が日本一の急勾配を走ります。
 予定では南アルプスあぷとライン終着の井川駅まで行くつもりでしたが、プラス数時間の山道は無理の判断に意欲の衰えを感じます……(以前は先を考えず挑んだのに)


塩郷の吊橋(Map)

 近ごろ高所は怖いくせに、なぜか「ここは大丈夫そう」とわけの分からん自信を抱き、往復渡りきります。
 大井川に架かる最も長い吊り橋(220m)で、手前から、民家、道路、線路、大井川を渡ります。
 足下の民家側にすれば「領空侵犯」になり、昔は重要な生活道で協力的としても、現在は大丈夫なのだろうか。

 ここからSLを狙えば迫力がありそうですが、風向き次第では煙から逃げ場がありません。
 奧に米粒のように見えるご夫婦と橋の途中ですれ違い、互いにかけ合ったエールが仲間の励ましとして響くようで、橋を降りた道路で走り去る彼らの車と手を振り、無事を確認しあったりします。
 そのご夫婦は、非日常体験の共有感が親密さを高めたようですが、いさかいの火種にもなりそうですから、オススメはしません。だって、責任持てないもの……

 風も弱く「気分爽快!」なひとときで、「ファイト、一発!」にはならないと思いますから、一度是非!


大井川鉄道(Map)


 SLの運行時間とタイミングが合い、道の駅「川根温泉」脇の赤い鉄橋で待機します。
 大井川鉄道のSLはサービス満点で、機関車は見えなくても「遠くで汽笛を聞きながら♪」の煙と汽笛が徐々に近づいてくる高揚感には、しびれるものがあります。
 入浴施設から人も出てきますし、運転手(機関手が正しいか?)も見せ場と心得ていて、橋の上では汽笛も煙も大サービスでアピールしてくれます。
 「久しぶりなの〜」と涙ぐむおばあさんの蒸気機関車に対する郷愁には、時代背景を含め複雑な思いがあることでしょう。
 わたしはガキ時分に八王子駅で汽笛を鳴らされ、飛び上がって驚いた印象があります(八高線の機関車だったか?)。

 「キターッ!」の瞬間からあっという間ですが、迫力ある走りには「カッケー!」とほれぼれしますし、郷愁感を持たない若者に人気があることもよく分かります。


旧東海道  金谷坂石畳(Map)

 一般的に石畳は歩きやすさのためと思うも、ここは丸い石が並び凸凹なため運動靴でも歩きづらかったりします。
 付近は「青ねば」という滑りやすい土壌のため、凸部の土に触れない部分が重要だったのかも。

 ここを荷車が通ったのか? 飛脚は走れたのか? の疑問は、現代の時間尺度に生きる者の考えで、時間にとらわれない当時の人々は、あせることなく苦労を楽しみながら坂を上ったのでは、と思ったりします。
 「あの坂? そりゃぁ、てーへんだったぜ!」の苦労自慢は、誰もが同じ道を通るしかない時代の、皆に通じる話題として楽しめたのかも知れません。


島田宿  大井川川越(かわごし)遺跡(Map)


 徳川家康は東海道の整備に際し、大井川、安倍川など6河川の架橋・通船を禁じます。
 東海道最大の難所とされた大井川越えでも、川越(かわごし)人足の手を借りる必要があり、ここは川越衆の拠点を復元・保存する地区になります。

 現在の堤防と比べると田んぼのあぜのような当時の堤防付近で、足止めされた人々の姿を想像すると、映画『雨あがる』(小泉堯史監督 2000年)の絵が浮かんできます。
 お金で時間を買って目的を達成する現代人と、川が渡れるまで待つしかない侍の時間の過ごし方には大きな違いを感じますが、時代ごとにある制約の中で時間を楽しもうとする意欲があれば、時間の価値は変わらないはず、と思わせてくれた気がします。


蓬萊(ほうらい)橋(Map)


 この橋は東海道から少し外れた地に1897年(明治12年)に架けられ、現在ギネスに世界最長の木道歩道橋(897m)として認定されます。そこを往復独り占め! したつもり。

 ここが映画『ツィゴイネルワイゼン』(鈴木清順監督 1980年)の三途の川!(ロケ地)
 いまさらと思うも、調べるとたくさん出てくるのでうれしくなります。
 映画は、精神を病んだ男の「生と死」をめぐる非・常識的ストーリーなので、観賞してピンと来なかった人への解説は難しいかも知れません。
 六文銭(三途の川の渡り賃)の価値は分かりませんが、上の橋は100円で冥土へ渡り戻ってこられます。
 先も見えない橋にワクワクと歩を進める心境には、久しぶりの「清順ワールド」に身を投げ出す快感があります!
 その説明も難しいし、冥土とは「未知なる地」でいいようにも思います。


 この日の宿は焼津にとり、食のテーマである「焼津のすし屋」へ。
 これまで各地で薦められどこもNGだった太刀魚ですが、塩味であぶったものを出してもらい、初めてうまいと思わせてくれます。
 単身赴任の彼に教えてもらった日本酒も楽しめました。
●磯自慢─吟醸:お酒らしい味を楽しめる
●喜久酔(きくよい):すっきりしているので、つまみながら飲むにはこちら!

 酒も肴も満足し文句ないばかりか、値段の高さも経験させてもらいました(東京もんが調子に乗ってましたし……)

 上は翌日の新金谷駅発車前の絵で、蒸気機関車の旅に盛り上がるジジ・ババたちが群れています(遠足の子どもたちのよう)。
 外からは見ましたが、やはり乗らなければ話しになりません。次は是非汽車の旅を!

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